英語で偏差値70を越えてみよう -英語の情報構造-

「英語」というやつは「現代文」と同じくらい何をやればいいのか分からない教科だ。
単語/熟語/文法(四択)という現代文にはない――そして成果もわかりやすい――分野があるのだけど、それだけで英語が解ける/読めるようになるかと言えばそんなはずはない。それは単語やら文法やらがほとんど完璧なはずの現代文で点を落としているのを思い出せば明らかだ。単語/熟語/文法はそれなりにきちんとやっているという前提で、その他に何をすればいいか?――それは「英語を読める」ようになるということだ。

「英語を読める」とは

「英語を読める」ためには「返り読みをしない」*1他に、「文と文の繋がりが分かる」「段落と段落の繋がりが分かる」ことが必要になる。ありがちな「訳せるけど何言ってるのか分からない」というのはこの繋がりが見えていないから起こる。他のところで具体化していたり、詳しく説明されていたりするのが見ていなければ、分からないのは当然だ。
受験生が理解しにくいというのは、すなわち問題になりやすいということでもある。最近主に国公立大学で下線部訳に代わって猛威をふるっている「(抽象的表現)とはどういうことか、日本語で説明しなさい」タイプの問題もこれを聞いている。この問題も知っての通り結局は訳なのだけど、しかし下線部訳とは違って「どこを訳すか」という点も問うことが出来る。当然これは「文/段落の繋がりが見えているか」という問いに他ならない。

英語の情報構造

文の繋がりを把握するために、英語の情報構造を知っておくということは大いに意味がある。情報構造というのは英語の持っているクセのようなもので、これを理解するということは「英語」そのものの傾向と対策を知るということだ。

英語の文で前の方と後ろの方、どちらが大事か?と訊くと、多くの人は「前の方」と答える。こう答える最も多い原因としては、倒置を教えられる際に「≪強調≫のために前に持ってくる」とか教えられてるからじゃないかと思う。この教え方も間違ってはいないのだけど、しかしこれだけだとどうしても「前の方に来る情報が大事」という風に考えてしまうのであまり良くない。
じゃあどう考えればいいのか、というのは後に置いておいて、まずは英語の「情報構造」について。

旧情報→新情報――英語の情報構造

結論から言えば
英語の文は冒頭が旧情報で始まり、後部に新情報が来る。
旧情報とは

1.一般常識
2.会話/文章で既に言及したこと
3.2から類推できること

の3種類。
新情報はこの逆、つまり聞き手/読み手がまだ知らないであろう情報であり、こっちが筆者のイイタイコトだ*2
だから、文章の読解の際には当然新情報=文の後部が重要となる。
情報構造を使った読解法は後述するとして、まずは「情報構造」について例を挙げながら説明しよう。

例その1

ここに2つの文がある。

  1. He was arrested when he was in America.
  2. When he was in America, he was arrested.

これらは訳せばどちらも「あいつアメリカにいた時に逮捕されたんだぜ」となるため、中学/高校の英語教育では一般に「同じ」ものとして扱われている(はず)。
しかし、この2つの文で話者が伝えたいこと(イイタイコト)は全く違う。
前者は「あいつががアメリカにいたときに」ということが言いたいのであり、後者は「彼が逮捕された」ということが言いたいのである。
つまり1つめの文が使われるのは

「あいつヤベえよな」
「ああ、あいつアメリカにいた時に逮捕されたんだぜ」(He was arrested for assult when he was in America.)

というような状況であり、2つめの文が使われるのは

「あいつアメリカに留学してたんだっけ?」
「ああ、あいつアメリカにいた時に逮捕されたんだぜ」(When he was in America, he was arrested for assult.)

というような状況である。
旧情報と新情報という区別が明確になるように訳してみると

  1. 「お前の言うとおり、あいつが逮捕されるのには不思議はないと思うけど(旧情報)、なんとアメリカで逮捕されたことがあるんだぜ!(新情報)」
  2. 「お前もあいつがアメリカに行ったのは知ってると思うけど(旧情報)、なんとその時に逮捕されてたんだぜ!(新情報)」

とでもなるだろうか。冒頭の旧情報で前の話題を引き継ぐのだ。

例その2(早大の問題から)

――と言っても自前の例文だけでは説得力もイマイチなさそうなので、今年の早稲田の文学部の問題を見てみよう。下に冒頭を引用してある。青文字が旧情報で、赤文字が新情報だ*3

(1)The cartoon as we know it today is an amusing drawing used in newspapers and magazines for conveying political commentary and social comedy.
(2)Originally, the word "cartoon" meant a preparatory drawing for a painting or other work of art.
(3)Punch, the magazine of humour and satire accidentally gave the term a new meaning, and thus changed the English language forever.
(4)At that time ,in the early 1840s, the magazine held as its most important feature a full-page satirical drawing.

一文一文丁寧に見ていこう。
(1)これは最初の最初なので全部青文字にしてもよさそうだけど、(2)との対比が存在するので後半は赤文字にしておいた。漫画を知らない人はまずいないだろうし、「今日私たちが知っている漫画」とわざわざ断っている。旧情報の定義にピッタリはまる。
(2)それがどのようなものであったのかということはともかく、「元々の"cartoon"という語」という言葉が分からない、という人はいないだろう。反して、「絵画や他の芸術のの準備のための絵を意味した」ということを知っている人はあまりいないはずだ。きちんと新情報になっている。
(3)"Punch"は一見旧情報の定義に合わないように見えるかも知れないけど、イタリックで固有名詞であることを示した後で説明しているので、やはりこれも旧情報――重要度が低い情報――として見ていいだろう。赤文字部分が新情報なのは言うまでもない。
(4)「初期、つまり1940年代初めの漫画」も言葉の意味は十分分かる。しかし"a full-page satirical drawing"とはどういう事だろうか?やはり新情報なのでよく分からない。

この後に、"a full-page satirical drawing"が"The Big Cut"として知られていた、と続き、その次のパラグラフでは"In July 1843, "The Big Cut" was...."から始まる。
ね?ちゃんと旧情報→新情報となって旧情報の部分で話題を引き継いでるでしょ?

旧情報=要らない情報 ではない

散々旧情報旧情報と言っているが、旧情報も不要な訳ではなく「何を引き継いでいるか/何が話題か」というのが重要だ。
つまりA is B. B is C. となっているか、A is B. A is C.となっているかを見なければならない。これは「文と文の繋がりを読む」ということの第一歩でもある。

読解への入り口

これさえ分かっていれば、例えばA is B1. B2 is C.となっていて、B1が分からなくてもB2を見ればいいし、そこも分からなくてもAとCを見れば大体は予想がつくだろう。そういう風に1文1文に拘泥することなく広く捉えて読むということは、現代文でも必要だし、まして分からない単語や表現がしょっちゅう出てくる英語を読む上では不可欠だ。isに代表されるイコール関係だけではなく、対比もまた、読むことを助けてくれる。
このあたりの実践的なことはまたそのうち書くかも知れない。

倒置再び(おまけ)

冒頭の倒置の話に戻ると、あれは≪話題化≫として教えた方がいいように思う。

The view from the valcony was wonderful.

Wonderful was the view from the valcony.

これは「素晴らしかったもの」について話をするために倒置が起こっている、というのは情報構造を知っていれば分かるはず。
倒置した文で話し手が伝えたいのは「(他でもない)バルコニーからの眺めが、素晴らしかった」ということだ。
テーマとして持ってくるのだから≪強調≫と言えないこともないのだけど、ここまで説明せずに単に強調とだけ言って済ませるのは誤解の元になり、やはり良くないだろう。

*1:これはそのうち説明する…かも。

*2:だって一般常識や相手が知ってることを力説してもどうしようもないし

*3:色分けは結構適当。そもそもキッチリと「ここまで新/旧情報」と分けることは出来ないので単なる便宜上のもの